岐阜県中津川市から北海道東川町に酒蔵を移転した三千櫻酒造のお酒をまとめて取り寄せて飲み比べることにしました。最後の４本目はこれです。「三千櫻（みちざくら）純米　愛山」。 順調な滑り出しを見せる三千櫻酒造ですが、空太郎には気になることがあります。それは蔵元と杜氏の年齢です…… more 。蔵元の山田耕司さんは６１歳。杜氏の安藤宏幸さんは５９歳。ともにあと２０年続けることは現実的ではありません。その点について山田さんに伺うと、次のようなお話でした。＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊うちは子供が巣立っていて、後を継ぐ可能性はゼロです。ですから、会社のオーナーは山田家が続けるのではなく、どこかに株式を買ってもらえればいいと思っています。問題は造り手ですね。酒を造りたいと真剣に考えている若者は多くないし、しかも、酒造りには才能がいります。酒造りの知識ならだれでも勉強すれば身につきますが、問題はその人の性格です。物事に動じない。細かいことにこだわらない。いつでも自然体でいられる。神経質にはならない。といった人が優れた造り手になります。その反対だと酒自体が美味しくならないんですよ。東川町の若者からそんな人物を見つけて育てたいとは思っているんですが、果たしてうまくいくかどうか自信がありません。＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊いま、他の酒蔵にいて、ナンバー２や３の立場でいる方も歓迎だそうです。 さて、４本目のお酒は、北海道に来ても最後まで本州産の酒米として使い続けるつもりでいる、愛山の６０％精米の純米酒、一回火入れ酒です。上立ち香は柔らかな酒エキスの香りが。玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に薄らととろみ層を乗せて、優雅な雰囲気をちらりと覗かせながら、忍び入ってきます。 受け止めて保持すると、促されるままにゆっくりと膨らみ、拡散しながら、適度な大きさの弾力性に富んだ粒々を連射してきます。粒から滲み出てくるのは甘味８割、旨味２割。甘味はザラメ糖系のややとろりとした印象、旨味は３～４種類のコクをミックスしたタイプで、両者はお互いに譲り合うようにして静かなハーモニーを奏でます。 流れてくる含み香は他の３本とは異なる個性的な香りで薄化粧を付与。後から酸味と渋味が少量現われて薄氷の輪郭を形成。終盤になると酸味が消える代わりに苦味が登場して、渋味と共に甘味を締め付けます。これに甘旨味は反応して縮退に転じ、そのまま淡くなりながら昇華して行きました。（加藤忠一さん描） 三千櫻酒造の新天地のお酒は全体として岐阜時代よりもさっぱりした印象です。個人的にはもう少し艶と活力が欲しいと感じました。２年目に期待です。 お酒の情報（２１年１９３銘柄目）銘柄名「三千櫻（みちざくら）純米　愛山　２０２０ＢＹ」酒蔵「三千櫻酒造（北海道東川町）」分類「純米酒」「一回火入れ酒」原料米「愛山」使用酵母「不明」精米歩合「６０％」アルコール度数「１５度」日本酒度「不明」酸度「不明」情報公開度（瓶表示）「△」標準小売価格（税込）「１８００ｍｌ＝３３６４円」評価「★★★★（４．４点＝９３点）」 close

北海道「三千櫻　純米　愛山」スタンダードな甘旨味が酸渋苦を従えてマイルドな世界を描く